わたしが舞台を好きなわけ

観劇した舞台の感想や自分なりの批評を書き綴るブログです

鮮やかなる、生と死の対比 ~宝塚雪組「ひかりふる路」~

「神々の土地」で観劇の楽しさに目覚めた4年前の私。
その私が、次に宝塚大劇場に足を運んだのは、たしか雪組の「ひかりふる路」でした。
 
じつは、演目が発表された時点から、この作品にはずっと関心がありました。
なぜなら私はフランス革命が好きだから。
16歳で安達正勝先生の「物語 フランス革命」という本に出会って以来、私はこの革命と、そこに浮かび上がる人間ドラマに強い関心を抱いて生きて来ました。
 
恐怖政治の指導者を主人公に、果たしてどんなミュージカルがうまれるのか…。
興味津々、という気持ちで劇場に向かったことを、今でも覚えています。
 
物語の核となるのは、ロベスピエールを殺そうとパリに出てくるヒロイン、マリー=アンヌ。
彼女のモデルが「暗殺の天使」と呼ばれたかのシャルロット=コルデであることは、あらすじを読んだ時から気づいていました。
 
史実のシャルロットは革命家のひとり・マラーを暗殺してギロチン送りとなりますが、
本作のヒロイン・マリー=アンヌは殺そうとして近づいたロベスピエールに次第に惹かれ、悩み、暗殺に失敗して、テルミドールのクーデターを生き延びます。
クライマックス。
「教えてくれ、私と君の間に、真実と言えるものがひとつでもあったのか」と問うロベスピエールにマリーアンヌは答えます。
「ひとつだけあるわ。あなたを愛してしまったこと。…(中略)殺すために近づいたのに私はあなたを愛してしまった。でも、同じように殺したい。全て真実。全てが私の中でぶつかり合っている」
 胸の中でせめぎ合う、相反するふたつの激情。魂の叫びのようなその思いを、真彩希帆さんは全身全霊で表現していたと思います。
そしてラストシーン。
コンシュルジュリ監獄から断頭台への路を進むロベスピエールと、釈放されて「生」への路へ踏み出すマリー=アンヌ。
すぅっと舞台に浮かび上がった2本のひかりの路。決して交わらないその道を、一人は死へ、一人は生へとまっすぐに進んでいく後ろ姿が忘れらません。その対比が見事で、いまでもなお、情景が脳裏によみがえります。
 
主演のお二人の演技と歌唱力はもちろんずば抜けていましたが、私の印象に強く残ったのは、ダントンを演じた当時の二番手・彩風咲奈さんの役作りでした。
ダントンと言えば、豪放磊落で、男の中の男と言われた革命家。
酒好きで女好き、外見も男性らしい風貌で、女性にとってはなかなかに演じづらい人物です。
けれど彩風さんの演技は、情熱的で、包容力があって、奔放な男らしさがたっぷりと感じられて。
ああ、まさしくダントンだなぁ
と自然に私を納得させてくれる役作りだったと感じます。
 
最高のダントンが見られた一方で、唯一残念だったのは、彩凪翔さんが演じたロラン夫人を単なる悪役にしてしまった脚本でした。
ロベスピエールが主人公なら、彼と対立したロラン夫人が敵役になってしまうのはいたしかたありません。
しかし、史実のロラン夫人は、男に媚びたり、ましてタレイランと組んで裏で陰謀に手を回すタイプの女性ではありません。正々堂々ロベスピエールとわたりあえるだけの知性と度胸を持った女性です。
男の政治家に一歩もひけをとらなかった聡明な女性。
彼女をそう描いたほうが、もっと作品全体に深みが増したのではないだろうかと思います。本来男役の彩凪さんだからこそ、強く知的な女性像を演じられたはずですし、彼女が凛と胸を張ってロベスピエールに真っ向勝負を挑む演技を見てみたかった…と思えてなりませんでした。
 
ミュージカルナンバーはいずれも壮大で、耳に残る素敵な曲が多かったと思います。