わたしが舞台を好きなわけ

観劇した舞台の感想や自分なりの批評を書き綴るブログです

”カリスマ”の生まれる場所 ~宝塚花組「MESSIAH(メサイア)~異聞・天草四郎~」~

2018年7月19日

どこの世界にも、スターと呼ばれる人たちがいます。
彼らの放つ圧倒的なオーラ、華、持って生まれた輝き。
それはどんなに努力をしたからといって、誰もが持てるものではありません。

そんな天性のカリスマ性を持つスターが、今なお伝説を残す島原の乱の指導者・天草四郎を演じたらどうなるか…。
そのひとつの答えを示してくれたのが、MESSIAHという作品だったように思います。


わたしは常々、舞台とは「人間のエネルギー」が感じられる場所だ…と思っているのですが、MESSIAHはとりわけ、そのエネルギーが発散された作品だと感じられました。

島原の乱を起こす前、四郎が「立ち上がれ」と歌いかけ、絶望に満ちた人々が徐々に顔を上げ、集まり、意思を持って団結していくくだりは、とくにそう。

そのど真ん中で、強い求心力を持って輝く主人公=明日海りおの姿。


絶対的スターのカリスマ性を利用した演目であると同時に、役者が揃った、充実期の花組だからこそなしえた舞台なのだと感じました。

 

以下、印象に残った方々について個別に。

天草四郎時貞(演・明日海りお):彼女以上に天草四郎が似合う役者が他にいるでしょうか。この人についていきたい、と思わせる圧倒的なカリスマ性は、史実はどうであれ、数多の伝説を生んだ一揆の指導者にぴったりでした。
本作の天草四郎は、神の声を聞きません。「自分たちの手で圧政からの自由を勝ち取るのだ」という強い情熱によって人々のリーダーとなります。
外から与えられる力ではなく、自分の持つカリスマ性で自然と島原・天草の救世主となる…。そんな本作の天草四郎役は、長らく宝塚を、牽引してきた大スター・明日海りおの集大成だと感じました。役者として大成し、円熟期を迎えた彼女だからこそ挑めた役だと思います。

 

松倉勝家(演・鳳月杏):同情の余地もない悪役。彼女の芝居の上手さには度肝を抜かれます。私は芝居そのものが好きで宝塚を観ており、特定のご贔屓はいないのですが、誰がお気に入り?と言われたらちなつさん(鳳月さん)の名前を挙げると思います。それくらい彼女の実力は素晴らしい。最高の脇役というべきでしょうか。今回の松倉勝家は、天草の領民達に苛政を敷き、拷問をしてまで年貢を取り立てた藩主役。舞台ではその下衆っぷりが光っていました。登場した瞬間から滲みでていた傲慢さと冷酷さ。一切感情がこもっていない、領民を蔑むような眼差しがお見事。

 

松平伊豆守信綱(演・水美舞斗):徹底して「静」に徹した演技が見事でした。彼女の持ち味は明るさや溌剌さだと思うのですが、それを封印し、幕政を預かる重鎮の風格を醸し出していました。物語の松平伊豆守は、一揆軍がやむにやまれず放棄した事情を理解しながらも、鎮圧しなくてはならないという立場にある人物。しかも感情を直接吐露する場面はなく、葛藤を無言の演技で見せなくてはいけないという非常に難しい役どころです。彼女のぐっとこらえるような表情や押し殺した眼差しからは、それが十二分に伝わって来ました。抜擢に答えた演技だったのではないでしょうか。
特に最後の場面、生き残った山田佑庵と対面し、無言で別れる場面は、彼女の「静の芝居」の真骨頂だと思います。幕府の屋台骨を支え続けてきたその立場から、一言も山田に声をかけない松平伊豆守。しかしその眼に光るものがたたえられていたのを、私は忘れることはできません。あの一滴の涙だけですべてを伝えられるのは、彼女の演技の真価といえるのではないでしょうか。