わたしが舞台を好きなわけ

観劇した舞台の感想や自分なりの批評を書き綴るブログです

完成されたエンタメ演劇 ~東宝「1789 バスティーユの恋人たち」~

2018年5月9日 帝国劇場
役替わり
ロナン:小池徹平 オランプ:夢咲ねね マリー=アントワネット:凰稀かなめ

 

 最高のエンタメ。観客が日常を忘れて楽しめる王道のミュージカル。
「1789」はまさに、そのように言い表せる作品ではないでしょうか。
 現代的な音楽に、エンタメ性に溢れた脚本。そして心地よい物語の疾走感。どれをとっても純粋に楽しむことができます。


 そして「1789」の最大の魅力はその「世界観」。
フランス革命なのに現代的な音楽。
フランス革命なのに現代的なダンス。

フランス革命なのに現代的な衣装。
 歴史と「今」とが絶妙に組み合わさった世界観は、新鮮で衝撃的。まさに「1789」ならではだと思います。
「マリーアントワネット」「スカーレットピンパーネル」など、フランス革命を題材にしたミュージカルは枚挙にいとまがありません。それでも、1789のフランス革命に対するアプローチは、全く違うものだと感じます。


 その魅力のひとつは、「名もなき庶民を主人公にした点」にあると思います。
 フランス革命というと、「倒される側」の王・貴族と「倒す側」の革命家・民衆という二項対立に単純化されがちです。
 しかしその陰には、もっと重要な対立関係が潜んでいる。
平民でありながら、高等教育を受けた革命家たちと、明日のパンのために働く民衆。同じ「現体制を倒す側」であっても、両者の間には、深い隔たりがあったはずです。
 当たり前のように思えて、けれど見落としてしまいがちな溝。1789はこの溝を観客の前に可視化してくれました。
 餓えと戦う民衆は、理想論を語る革命家とは別次元の苦しみの中にいる。
 それを表現するためには、主役は、何の力もない庶民でなくてはならなかったと思います。


 そして「1789」の魅力といえば、登場人物全員が、脇役に至るまで個性的なこと。
 癖の強いアルトワ伯爵や取り巻きで道化役のラマール、観客もぞっとするほどの弾圧者ペイロール…。
 実力者揃いの俳優陣である、ということも勿論ですが、キャラクター設定が魅力的で飽きさせません。

印象に残ったキャストの感想を少し。

 

・ロナンとオランプ
言わずと知れた主役とヒロイン。ロナンとオランプがどのように惹かれ合い、恋に落ちて行ったかは脚本で明確に書かれていません。唐突な展開にも見える脚本の穴を埋めるのは、芝居の役割。そしてフロナンとおランプの芝居には、二人の驚きやときめき、心の揺れ動きが容易に見て取れました。

 
・マリー=アントワネット(演・凰稀かなめ
凰稀さんのマリー=アントワネットは、やや歌唱力が弱いという印象を受けました。
その一方、アントワネットの成長をはっきりと分かるかたちで表現したお芝居に圧倒されました。登場シーン「全てを賭けて」では、心もち頼りなげな声や、幼稚なしぐさで考えの足りぬ遊び人の王妃を印象付けるお芝居。けれど二時間を経た彼女は、国を背負う自らの責務に目覚めた、堂々たる女王へと変貌を遂げます。
 マリー=アントワネットの変貌。
そこに至る王妃の心境の変化が丁寧に描かれ、違和感なく受け入れられるものになっていたように思います。王太子の死を自らへの天罰と思い、今まで堂々としていたフェルゼンとの不倫にも後ろめたさを感じるようになり、王妃という立場に目覚める…というプロセスは、見ている側にも実に納得のいくものでした。


・ダントン(演・上原理生)
ダントンといえば、男の中の男。情に厚く、酒と女を愛し、だれとも分け隔てなく接しうる好漢。敵のためでもひと肌脱ぎかねない情熱の男。「男が惚れる男」と評されるダントンの魅力を表現するのは、一筋縄ではいかないことでしょう。
 けれど上原理生さんのダントンは、まさしくダントンという人物のイメージを具現化したようなたたずまいでした。劇場に響き渡るバリトンは、議場を虜にしたダントンの雄弁さを想起させ、逞しい肉体は、そのまま彼の度量の大きさを思わせます。見せ場のソロ「パレロワイヤル」は勿論のこと、登場場面では終始存在感があり、舞台に落ち着きを与えていたと感じました。
・ペイロール(演・岡幸二郎
みごとな歌声を響かせてくれるキャストは幾人もいましたが、MVPを決めるとすれば、間違いなくペイロールでしょう。幕開きのソロで、瞬時に観客の心を奪う歌声は、さすがという他ありません。ドスの利いた声、威圧感…岡さんの桁違いの凄みを感じました。

 

再演があれば、劇場にぜひ足を運びたい作品です。