わたしが舞台を好きなわけ

観劇した舞台の感想や自分なりの批評を書き綴るブログです

絢爛たる”夢物語” ~宝塚宙組「天は赤い河のほとり」~

 宝塚歌劇の持つ煌びやかな輝きと、夢の園のような世界観。

それは、お伽噺のような物語にはもってこいの舞台です。

天は赤い河のほとり」はいまでも私の心に残っている作品。純粋な気持ちで、夢に酔いしれることができた作品。

 少女漫画原作の舞台を見るのは初だったこともあり、じつは最初に観劇した時はそこまで、ピンと来なかった「天は赤い河~」。

けれど最終的には、2018年に見た舞台作品でベスト3に入るほど好きだと思えるようになりました。

 

古代オリエントヒッタイト帝国を舞台にした有名漫画の舞台化。全28巻の内容を、駆け足でまとめたので、漫画を知らない観客にはちょっとわかりづらい構成になっていたと思います。けれどひとたび原作を手に取ってみて、その世界観が舞台に忠実に再現されていることに驚きました。

 

それを踏まえて2回目の観劇。

すっかり好きになりました。

(もちろん舞台としては、原作を全く知らなくてもすんなり理解出来ることが望ましいのですが)

 

まず、ダイナミックなオープニングが何よりも見事。ヒッタイト、エジプト、ミタンニの3王国の主要キャストが順番に現れ、全員のコーラスと共にテーマ曲を歌い継ぐ演出は、一気に観客を物語の世界にいざなってくれます。

 

ただただ、わくわくする。

 

この作品以上に「わくわく」させてくれる舞台のオープニングに、私はまだ出会ったことがありません。

 

そして魅力的なのは、それぞれの個性にぴったり合った主要キャストの配役。

印象に残っているキャストを少しだけ。

ラムセス(演・芹香斗亜)舞台上に現れた瞬間から、観客をくぎ付けにする存在感。ああ、この人はこの役で一皮むけたな、と思わせてくれました。溢れ出る野心と力強さ、男の余裕を見事に体現していて、これ以上ないほど魅力的な男性像を作り上げていました。ユーリを口説くシーンでは、彼女がなぜなびかないのかと地団太を踏んでしまうくらい。

 

ネフェルティティ(演・澄輝さやと)あとになって、しみじみと思い出される印象深い演技は、澄輝さんのエジプト王太后ネフェルティティ。世界史の教科書でお馴染みの、有名な片目の胸像のモデルとなった女性です。

少女の頃の純粋な心を捨て、敵国でただ権力のみを己の糧として生きて来た女の強さと悲哀。その物語が観客の心を掴んで離しません。

短い出番であったにも関わらず、彼女の演技からは、自分の力で権力の座に上り詰めてきたであろうネフェルティティの、何年もの孤独な戦いの歳月を感じ取ることが出来ました。それだけ深い役作りをされたのだろうと思います。

ただ、惜しまれたのは、この大作を一幕ものとして上演してしまったことです。 

大作漫画の世界観を、1時間35分の舞台に押し込めてしまうのはあまりに惜しい。これほど見応えのある作品ならば、一本仕立ての二幕ものにしても、じゅうぶんにチケットが捌けたはずなのにと思えてなりませんでした。

実際、原作の名シーンが幾つも削られており、尺の都合で筋書きが変わっていたのも事実。せっかく素晴らしい作品を舞台化するのであるから、その魅力をじゅうぶんに見せられる形を追求すべきだったのではないだろかと、思えてなりませんでした。